マンションや土地など、自分が有する不動産を売却することで生じる利益については税金を支払う義務が発生します。
したがって、マンションの売却を検討する場合は、売却後に発生する税金の種類や支払う金額、特例の有無などをあらかじめ把握しておかないと、売却することでかえって損をしてしまうケースもあるのです。
本記事では、マンションの売却をスムーズに進めるために、税金の特徴や計算方法、損失が発生した際に活用できる控除や特例の種類について解説します。
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マンション売却にかかる税金とは
まずはじめにマンションの売却によって発生する税金について解説します。
売却益に対して課税される「譲渡所得税」
譲渡所得税とは、土地やマンション、一戸建てなどの不動産を売却することで発生した利益(譲渡所得)に対して課税させる所得税や住民税のことを指します。
(2037年12月までは復興特別所得税(基準所得税×2.1%)も発生)
また一般的に混同して解釈されがちですが、譲渡所得として課税させる金額は、土地や建物など不動産の売却額と同じではありません。
譲渡所得を算出する際は、売却価格から不動産の取得費や、購入及び売却時にかかる諸費用や手数料などを差し引いた金額が譲渡所得に該当します。仮に不動産を売却することで、譲渡所得がマイナスになる場合には課税させることはありません。
なお譲渡所得税に対する税率は、マンションを所有していた期間によって異なるだけでなく、給与所得や事業所得など、ほかの所得と合算せず切り離して計算される「分離課税」の税率が適用される仕組みになっています。
譲渡所得の計算方法
不動産を売却したときの譲渡所得は、以下の計算式で算出することができます。
譲渡所得=譲渡価格(売却価格)−取得費*1−譲渡費用*2
*1)取得費とは、土地及び建物等の不動産を取得する際に発生する金額を指します。
主な項目としては、土地や建物を購入する費用をはじめ、建築代金、購入手数料、設備費や改良費も該当します。また建物の取得費用は、購入代金または建築代金から所有期間中の減価償却費を差し引いた金額になります。
*2)譲渡費用とは、不動産を売却する際にかかった金額を指します。
主な項目としては、不動産の売却のために取引業者に支払う仲介手数料をはじめ、売買契約書に貼付する収入印紙税、測量費用、建物の取り壊し費、立退料、違約金などが該当します。またケースによっては、買主を探すために支払った広告料や弁護士費用、登記費用が譲渡費用に該当するケースもあります。
所有期間が5年以下か5年超かで税率が異なる
マンションを売却する際は、不動産を所有していた期間によって税率が異なります。
その基準となるのは、1月1日時点で、不動産の所有期間が5年超か5年以下かによって、売却時に発生する譲渡所得にかかる税率の軽減措置を受けることが可能です。
不動産の所有期間が5年以下であれば「短期譲渡所得」、所有期間が5年を超える場合には「長期譲渡所得」に区分されます。
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率は次の通りです。
譲渡所得区分 | 所有期間 | 所得税の税率 | 住民税の税率 | 合計 |
長期譲渡所得 | 5年以上 | 15.315% | 5% | 20.315% |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63% | 9% | 39.63% |
不動産売却するタイミングによって、納める税率が分類された背景としては、1990年ごろのバブル期に横行していた“土地転がし”(取得した不動産をすぐに転売すること)や投機的な不動産取引を抑制する役割を担っています。
【計算例】所有期間が5年以下の場合の譲渡所得税
条件
・不動産の譲渡価格 1億円
・不動産の取得費 6,000万円
・譲渡費用 500万円
・所有期間 3年
1億円−(6,000万円+500万円)=3,500万円
所得税 3,500万円×30%=1,050万円
住民税 3,500万円×9%=315万円
復興特別所得税 1,050万円×2.1%=22万円5,000円
【計算例】所有期間が5年を超える場合の譲渡所得税
・不動産の譲渡価格 1億円
・不動産の取得費 6,000万円
・譲渡費用 500万円
・所有期間 10年
1億円−(6,000万円+500万円)=3500万円
所得税 3,500万円×15%=525万円
住民税 3,500万円×5%=175万円
復興特別所得税 525万円×2.1%=11万円
マンションの売却で損をしてしまったら?
マンションを購入した価格やタイミングによっては、売却することが必ずしも利益につながるとは限りません。そのため、不動産を購入した時よりも売却した時の方が値下がりしてしまう「譲渡損失」のケースもあらかじめ想定しておくことが重要になります。
その際に活用したいのが、譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例です。
以下では、譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例の概要と特例を受けられる条件について解説します。
買い替えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例とは、以前住んでいたマンションなどの不動産を売却することで生じた損失に対して、一定の要件を満たすことで、該当する譲渡損失をその年の所得から控除(損益通算)できる特例を指します。
仮に損益通算したにもかかわらず、控除しきれなかった金額については、譲渡した年の翌年から3年にわたって繰り越して控除することが可能です。
譲渡損失の繰越控除を受けるための要件は次の通りです。
・自身が有するマイホームを譲渡すること
(以前住んでいたマイホームの場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること)
・譲渡する年の1月1日における所有期間が5年を超える資産であり、かつ日本国内にあるものを譲渡すること
・災害等によって滅失した不動産を継続して所有する場合、譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超える不動産については、災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・譲渡の年の前年の1月1日から売却した年の12月31日までの期間内に、日本国内にある資産で、建物部分の床面積が50平方メートル以上あるものを取得すること
・買い換えた不動産を取得した年の翌年12月31日までの間に、居住用に供すること、または供する見込みであること
・買い換えた不動産を取得した年の12月31日において、買い換え資産に対する償還期間が10年以上の住宅ローンを有すること
なお、この特例には適用除外の対象となる不動産も存在するため注意が必要です。
適用除外の対象となる条件は次の通りです。
【繰越控除が適用できないケース】
・旧住居の敷地面積が500平方メートルを超える場合
・繰越控除を適用する年の12月31日において新居住用の住宅ローンが償還期間10年以下の場合
・合計所得金額が3,000万円超の場合
【損益通算及び繰越控除の両方が適用できないケース】
・旧住居の売主・買主が、親子や夫婦など特別な関係にある場合
・売却した年の前年及び前々年に3000万円の特別控除、長期譲渡所得の軽減税率の特例を受けている場合
・売却した年又はその年の前年以前3年内における資産の譲渡について、特別居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例を適用されている場合
住宅ローンの残債がある場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マンションの売却金額が住宅ローンの残債を上回り損失を被った場合、一定の要件を満たすことで、譲渡損失をその年の所得から控除することができます。
なお、損益通算できる限度額は、マイホームの売買契約日の前日における住宅ローンの残債から売却価格を差し引いた残りの金額が損益通算できる上限額となります。
譲渡損失の繰越控除を受けるための要件は次の通りです。
・自身が有するマイホームを譲渡すること
(以前住んでいたマイホームの場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること)
・譲渡する年の1月1日における所有期間が5年を超える資産であり、かつ日本国内にあるものを譲渡すること
・災害等によって滅失した不動産を継続して所有する場合、譲渡の年の1月1日において所有期間が5年を超える不動産については、災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・譲渡した不動産の売買契約日の前日において、その不動産にかかる償還期間10年以上の住宅ローンの残債があること
マイホームの譲渡価格が住宅ローンの残債を下回っていること
なお、この特例には適用除外の対象となる不動産も存在するため注意が必要です。
適用除外の対象となる条件は次の通りです。
【繰越控除が適用できないケース】
・合計所得金額が3,000万円超の場合
【損益通算及び繰越控除の両方が適用できないケース】
・親子や夫婦など特別な関係にある人にマイホームを売却した場合
・マイホームを売却した年の前年及び前々年に特例を適用している場合(譲渡所得の3000万円の特別控除、特定の居住用財産を買い換えまたは交換した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例)
・売却した年又はその年の前年以前3年内における資産の譲渡について、マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けている
マンションの売却時に使える控除とは
マンションの売却にかかわらず、不動産を売却することで利益が生じた際は税金を支払うことになります。
しかし、少しでもマンションの売却益を手元に残すために、現在多くの控除や特例を受けることが可能です。
ここでは、マンションの売却によって活用できる控除や特例について解説します。
3,000万円の特別控除
居住用財産を売ったときは、不動産の所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除が受けられる特例のことを指します。
ただし特例を受けるためには以下の適用条件を満たす必要があります。
・居住用の不動産を売却するか、または住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末(12月31日)までに売却すること
・売却した年の前年または前々年に同じ3,000万円の特別控除の特例、またはマイホームの譲渡損失についての損益通算および繰越控除の特例の適用を受けていないこと
・売却した年、その前年及び前々年にマイホームの買換えや交換の特例の適用を受けていないこと
・売り手と買い手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
10年超所有軽減税率
自分で住んでいるマンションなどのマイホーム(居住用財産)を売却した際の所有期間が10年を超えている場合、譲渡所得税の軽減税率が適用できる特例を指します。またこの特例は上記の3,000万円の特別控除の特例と併用できるため、3,000万円の特別控除を適用しても譲渡所得が発生している場合、10年超所有の軽減税率を使うことで、節税のメリットがあります。ただし、この軽減税率の特例を受けるためには、決められた時期に確定申告を申請する必要があるため注意が必要です。
軽減税率の特例を受ける場合は以下の条件を満たす必要があります。
・国内にある居住用財産(土地・建物)を売却すること(住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12年31月までに売却すること)
・売却した年の1月1日において、売却した不動産の所有期間が10年を超えていること
・売却した年の前年及び前々年にこの特例を受けていない
・売却した不動産について、マイホームの買い換えや交換の特例など、その他の特例を受けていないこと(ただし、マイホーム売却時に3,000万円の特別控除、軽減税率の特例は受けることが可能)
・夫婦や親子など、特別な関係がある人に対して売却していないこと
なお、マイホームを売却した場合の軽減税率は次の通りです。
課税長期譲渡所得金額 | 税率 |
6,000万円超 | (譲渡所得−6,000万円)×15%+600万円 |
6,000万円以下 | 譲渡所得×10% |
特定の居住用財産の買い換え特例
特定のマイホーム(居住用財産)を一定の期日内に売却して、代替する居住用財産を買い換えた際に、一定の要件を満たすことで、売却益に対する課税を将来に繰り延べすることが可能です。
特定の居住用財産の買い換えの特例を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
・自身が住んでいたマイホーム(居住用財産)を売却すること
(以前居住していた不動産を売却する場合、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること)
・売却年及びその前年・前々年にマイホームを譲渡した場合の「3,000万円の特別控除の特例」及び「軽減税率の特例」、「譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと
・売却したマイホームと買い換えたマイホームが日本国内にあること
・売却代金が1億円以下であること
・売却した人の居住期間が10年以上で、かつ売却した年の1月1日に売却した不動産の所有期間がともに10年を超えていること
・買い換える建物部分の床面積が50平方メートル以上あり、買い換える土地部分の面積が500平方メートル以下のもの
・マイホームを売却した年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換えること
・親子や夫婦など、特別な関係のある人に売却したものではないこと
特別控除や特例を受けるための手続き方法
土地及び建物の売却に際して、譲渡所得の有無に関わらず確定申告をおこなう必要があります。譲渡損失が発生した場合については、原則、必ずしも確定申告を提出する必要はありませんが、特別控除や特例を受けるためには確定申告による申請が不可欠です。
以下では、確定申告や特別控除・特例を受けるための手続き方法や必要書類について解説します。
必要書類
【不動産の譲渡税の申告に必要な書類一覧】
・確定申告用紙
(確定申告書には、申告書A・申告書B・第三表(分離課税用)の3種類があります。不動産の売却に関する申告をおこなう場合は、申告書Bと分離課税用の2種類の書類が必要になります。)
・譲渡所得の内訳書
(内訳書には、収入金額や所得金額をはじめ、土地や建物の所在地や売買契約日などの項目を記載して提出することになります。)
・不動産の売買契約書のコピー
・登記事項証明書
・譲渡費用(仲介手数料など)の領収書のコピー
・取得費用に関する領収書のコピー
・源泉徴収票や身分証明書など確定申告に必要な書類
○譲渡税の特別控除に関する必要書類
【居住用財3,000万円特別控除】
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書[土地・建物用]
なおこの特例を受けるためには確定申告書を提出する必要があります。
またマイホームを売却した人の住民票に記載されている住所とマイホームの住所が異なる場合、戸籍の附票のコピーや消除された戸籍の附票のコピー等が必要になります。
【10年超所有軽減税率の特例】
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書[土地・建物用]
・売却した不動産の登記事項証明書
この特例も同様に確定申告書を提出する必要があります。
またマイホームを売却した人の住民票に記載されている住所とマイホームの住所が異なる場合、戸籍の附票のコピーや消除された戸籍の附票のコピー等が必要になります。
【相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例】
・相続財産の取得費に加算させる相続税の計算明細書
・相続税の申告書のコピー
【特定居住用財産の買い換えの特例】
この特例も確定申告書の提出が必要になります。
したがって、確定申告書に以下の書類を添えて提出しましょう。
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書[土地・建物用]
・(10年以上居住していることを証明する書類)戸籍の附票など
・売却代金1億円以下であることを証明する売買契約書のコピー
・買い換えた新居の不動産(土地・建物)の全部事項証明書や売買契約書のコピー
・耐震基準を示す書類(耐震基準適合証明書、指定検査機関、建設住宅性能評価書など)
【マイホーム買い換え時の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例】
・(損益通算の場合)居住用財産の金額明細書(確定申告書付表)
・居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象になる金額の計算書類(租税特別措置法第41条の5用)
・以前の居住用財産に関する書類(売却資産を証明する書類、登記事項証明書、売買契約書のコピーなど)
・(マイホーム買い換えの書類)新居に関する登記事項証明書、売買契約書のコピー、借入金の残高証明書(年末時点)
・(繰越控除の場合)損益通算を受けた年について、一定の書類の添付がある期限内申告書の提出
・(繰越控除の場合)損益通算の適用を受けた年の翌年分から繰越控除を適用するまで連続して確定申告書(損失申告用)を提出
・(繰越控除の場合)確定申告書に年末における住宅借入金等の残高証明書を添付すること
手続きするためには確定申告は必須
土地や建物など不動産を売却した際に売却益が発生した場合だけでなく、損益通算や繰越控除などの特別控除や特例を受けるためには確定申告しなければなりません。
確定申告の時期は、売却益が発生した翌年の2月16日から3月15日の期間内に申告を提出しておく必要があります。
マンション売却などの確定申告については「投資用マンションを高く売却する場合の残債・税金・確定申告について」で詳しく解説しています。
活用できる特別控除や特例は確認しておく
マンションなど不動産を売却して譲渡所得税が発生した場合、ケースごとに適用する特別控除や特例は異なります。したがって、前もって活用できる控除や特例を知っておくことで、納税額を抑えることだけでなく、節税対策を取ることも可能です。
より詳しい適用条件や必要書類が知りたい方は、確定申告時期までにしっかり用意できるようにあらかじめ確認しておくようにしましょう。
まとめ
マンションの売却にかかる税金や特例措置は複雑なため、一般的には敬遠されがちです。
しかし、事前に売却時に発生する税制や所有期間、控除などの仕組みを理解することで、より効果的に売却することができます。
特に譲渡損失を出してしまった際は、一定の要件を満たすことで適用させる控除や特例も豊富に用意されているため、売却を検討する際は、出来るだけ損失額を軽減するよう意識するようにしましょう。